スタッフ通信


VOL.81 2013/09
有益にこぼす!
 居酒屋では、満席になる事が多々あります。満席になる事が、多々ないと、商売としては、なかなか継続できないのですが、当然、満席だと、お客様をこぼしてしまう事となります。今月は、この、お客様を、「こぼす」という事象に着目して、居酒屋業を分解してみましょう。
 まず、「こぼす」の意味はわかるよねぇ。一杯だから、座れない。だから、入店をお断りしなきゃいけない。こういう状態を機会損失ともいいます。いわゆるチャンス・ロスです。
 で、重要な事は、その「こぼす」時のお断りの仕方にあるのです。つまり「こぼす」って事の仕草や、ジェスチャーで、その後の、店舗の命運がわかれてくるのです。
 なので、今月は、どうやったら、お店にとって、有益に「こぼす」事が出来るかどうかを書きたいと思います。まず、お断りの仕方。よくよく聞いてみて欲しい。自店の誰かが、お断りをしてこぼしている状態を。だいたいは、こんな感じ、「ただ今、満席なんですよ〜。すみません〜」電話だと、もっと酷い! 「ただ今満席でして、また次回お願いしま〜す」って、軽々しく・・・。
 居酒屋が、満席の為に、空間を提供できないでいる。そんな状態がずっと続いている。そんな居酒屋は、確実に、つぶれます! これが私の持論です。私達の創業店は、その当時、毎日毎日100人ほどのこぼしがありました。平日も週末も関係なく、毎日が満席でした。奇跡の時と呼んでいます。でも、そんな中でも、私には常に危機感がありました。日々満席で繁盛はしているが、これで本当にいいのだろうかと・・・。時には、満席で、いつも入れずお断りするお客様が、烈火のごとく怒ってきたこともありました。「この店は俺の事を拒否しているのか!」って。常に一杯の居酒屋なんかに、私自身、絶対に行きたくないって気持ちも多々ありました。なので、そんな状態を改善する為に、私は2店舗目の出店に踏み切ったのでした・・・。
 お客様は、期待し、楽しみにしているから、その店に足を運んでいる。地域の中でも、繁盛店と呼ばれるようになれば、それは、大変な期待を込めてのご来店となる。そんなお客様に、満席で、ご入店になれない事を伝えるという事は、お客様を落胆させるばかりでなく、最大の裏切り行為であるということを私達は知らねばならない。
 中には、遠くから、足を運んでくれるお客様もいるだろう。また中には、人生最良の日に、当店を選択してくれたお客様もあるだろう。そんなお客様達に、満席でご入店頂けないって事は、一体どういう事なのか? それを深く考えた事がありますか? そんな大切な時に、満席という理由で、入店を断られたお客様の気持ちを、アナタは、考えた事がありますか?
 お客様をお断りする事は簡単だ。入店が出来ない事を言って、断ればいい。たったそれだけだ。でも、そんな中にも、繁盛店には繁盛店の哲学がある。入店をお断りする哲学だ。
 まず、お客様をお断りする場合、正真正銘に、真摯(まじめ)でなければならない。本当に心から、心底、申し訳ないと思った者がお断りするのと、そうでない者がお断りするのとでは、その違いが確実にお客様に伝わる。人は、考えている事が態度に無意識に表れるものである。
 また、お断りする時は、平身低頭でなければならない。態度もそうだが、心からそうでなくてはならない。気持ちの中に上から姿勢があるといけないって事だ。繁盛店の中には、当店は、繁盛店だから、そんなに簡単に入れるわけないといった上からの態度を、見え隠れさせる場合もよくある。そんな店は、早晩に苦戦に追いやられるだろう。本当の意味での繁盛店は、いつも平身低頭なのだ。
 さらに、未来的には、きっと、ご入店頂ける希望を、ご説明しなくてはならない。今は、入れないが、こんな時間帯なら入れるとか、こんな曜日なら入れるとか、いつか、きっとご入店して頂ける、そんな希望がないと、二度と、その顧客は、その店をノックしたりはしないだろう。未来に、きっとご入店出来る趣旨の説明もなく、満席の為の理由でお断りすると、それは顧客から、大きな恨みを買う事となる。断られた顧客は、その店の悪口をほうぼうで言うだろう。そんな無意味な恨みを買わない為にも、未来には必ずご入店して頂ける希望を「こぼし」客には与えなければならないのだ。
 常連様であれば、特に注意する必要がある。常連様なら、すぐにご入店して頂けるくらいのキープテーブルがあると素晴らしい。ただそんな事は簡単には出来ない。なので常連様はいつも以上に神経を使って、平身低頭に謝罪し、次回ご来店時に、前回ご入店出来なかった事を、深く謝罪出来るよう、記憶にとどめておく事も必要だ。
 また入店出来ない場合は、席が空いたらお電話するくらいの配慮もあってしかるべきだ。この時にも、丁寧に、重ね重ね、謝罪し、ようやくお席が空いたことを伝える。だいたいの場合は、気持ちよく、ご来店してくださるが、すでに別の店舗で食べていたり、飲んでいたりする場合もあるだろう。そんな時も、悪いのは、私達の側である事を決して忘れてはならない。深く反省し、私達の店が、一件目の選択に至らなかったことを心から詫びて、来店時に何かサービスを出すくらいでないといけない。
 ご入店出来ないお客様には、ショップカードや、割引券などを発行するのは、今や当たり前のことだ。そんな気の利いたサービスもなく、ただただ謝罪だけを繰り返す店舗は、必ずや廃っていくだろう。「こぼし」客に対して、どんな気の利いたサービスをするのかは、店のセンスだ。そのセンスが更なる繁盛店への道となるだろう。
 「こぼし」客が、次回に来るかどうか、それは、ご入店をお断りした時の対応ですべて決まる。うまく「こぼし」客の心をつかむかどうかは、その時に対応したスタッフがすべてを左右する。へたな「こぼし」方をすると、それは、次回の来店につながらないばかりか、その他の顧客を減らしてしまう事だってある。そういう重要な事であるということを理解しているスタッフでないと、「こぼす」作業はさせてはならない。
 こぼれた顧客が、次回来店してくれるかどうかは、その「こぼれ」客の去り際を見ればわかる。立腹した表情で、去っていくのは大変危険な事だ。私達の店の悪口をいう可能性が大きくなるからだ。なので、顧客を決して不愉快な気持ちにさせて「こぼし」てはならない。また立腹した顧客が万が一、次回の来店につながった時も注意が必要だ。その顧客は、前回断られているから、大いなる期待を込めて来店してくる。前回断られたがそんな大した店かどうかみてやろうじゃないか!! 的な感じでやってくるのだ。なので、そういった場合、店側に対するハンディキャップが大きいから、よほどの事をしないと、顧客は満足して帰らない。そうすると、決まって、たいした店ではなかったとなる。そして、翌日の職場で、悪口を言うようになるのだ。
 だから私達は、「こぼし」のお客様が、帰り際に、笑顔であるよう、全力で努めなければならない。その為にも気の利いたウィットやジョークを交えて、力技でも、笑顔を獲得しなければならないのだ。もしアナタの気の利いた言葉で、「こぼし」客が、笑顔になってくれたとする。その場合、極めて高い確率で近々に、再来店してくれることなるだろう。時には何度も何度も入れない事だってあるかもしれない。でもその度ごとに、アナタは、またその「こぼし」客を笑顔にして、こぼさねばならない。そして、そういった地味に見える行為、その積み重ねそのものが、繁盛店への道となるのだ。競争の厳しい社会です。少しでも、有益にこぼしてもらいたいものです。

 仕事に愛情を持てれば仕事には魂が入る。魂が入るから人の心を動かせる仕事になる。井筒和幸

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