スタッフ通信


VOL.75 2013/03
テーブルの上のコト・・・
 先月は客席周りについてを記述しました。今月はお客様が常に視線を落とす、テーブルの上について、を、少しだけ考察してみようかと思います。テーブルの事、そして、テーブルの上の事、ほん少しでいいので考えた事ってありますか? なんの事もないテーブルの話です。お客様が手を置いたり、さわったり、料理が載ったり、ビールをこぼしたり、そんなテーブルの話です。今月は、なんのヘンテツもない、そんなテーブルの話から、ちょっぴり踏み込んだ、人間観察をしてみたいと思います。
 人は、たくさんの料理があると満足します。安心するのです。それは人間の本能です。だからテーブルの上に食べ物がたくさんあると安堵するのです。逆に、テーブルの上に、何もないと不安になります。人間観察と本能の話です。
 あれを食べたいなぁって思う時、お客様は当然お料理を注文したいと思います。でもね、テーブルの上にお料理が一杯だと、注文するのに少し抵抗感があります。更にグループでご来店の場合、すぐに自分の意志で注文する事なんてできません。自分の欲求のみを満たすために、お料理を注文するなんて出来ないよね。もちろん、仲よしグループだと出来る気軽な注文だけど、大人の世界はそんな簡単じゃない。だから普通は周りをみて、配慮して、そして注文します。注文してもいいかなって考えて注文するのです。そんな時、空いた皿を下げないお店は、お客様に次の注文を許さない店って事になるのです。
 「もぅ! 私は追加の注文したいのにッ、あの店員は空いた皿も下げられないのッッ!」って感じです。顧客はテーブルの上が一杯だと追加注文がしにくいものです。空いた皿を下げると注文しやすいのです。
 「テーブルの上、少し空いたから何か注文する?」って、セリフが居酒屋にはよく飛び交います。このセリフは、オーダーを注文する自分を正当化して、周りに対する配慮をしっかりしてるよって、自己アピールしている言葉なのです。
 人間観察は続きます。まだ付き合い始めのカップルの場合、テーブルに少しでも空きがあると不安です。だから注文がきます。でもね、付き合い始めのカップルは食べません。そしてあまり飲みません。互いに互いを意識するがあまり、女子はけっこう何度もトイレにいきます。お化粧を確認します。テーブルの皿はきれいになくなりません。そしてパッタリと途中で注文が途絶えます。あとはダラダラと時間が続くだけです。恋の駆け引きが続きますが、客単価はそれ以上は上がりません。
 肉体系男子などは、ガッツリ食べます。飲みます。そして、追加のオーダーがバンバンきます。下っ端がテーブルの状況をよく確認して、やたらとベルがなります。満腹感はガッチリ確保されます。満足感もガッチリです。飲んで食べてくれるから、ほっといてもテーブルの上はいつも賑やかです。後はスタッフがしっかりお客様とおしゃべりをすれば、結構満足してくれます。
 テーブルの上に空いた皿ばかりだとすると、これはこれで困ります。一気に皿を下げると、そして、テーブルの上に何もなくなると、「おあいそっ」てなる事が多いです。「あらら、お料理が一気になくなっちゃった・・・。そろそろ帰ろうか」ってなるのです。この後、デザートでも食べて欲しかったのにって、そう考えても遅いです。それはお皿を下げる前に言うセリフだったりするのです。
 テーブルの上に書類などが載っている場合なんて、大丈夫かなぁって思います。書類が濡れないか? そうじゃない。ビジネスの話に花が咲いて、追加の注文が来ないのです。週末ともなると、もうヤキモキします。いい加減、何か食べてよって・・・。
 プロの接客とは、顧客の深層心理を見抜いて、どうやって、顧客の行動をコントロールするか。これが出来る人がプロの接客なのだと思います。そして、そのフィールドがテーブル上であり、顧客との会話や、顧客のしぐさなのです。テーブルの上で繰り広げられる毎日の戦いが、顧客とスタッフを結び、顧客とスタッフの明日の笑顔を創造するのです。
 お皿の上にお料理が残っているのに下げたりする人っていますよね。
 「あらら遠慮のかたまりが残ってますねぇ。どなたかいかがですか?」って感じで、一気にさらえて、空いた皿を作って下げてくる。そうやってテーブルに空いた空間を作って、「よかったら追加のオーダーをお聞きしましょうか?」なんて感じで、追加注文をとってくる。プロですよねぇ。テーブル上に空きがあると、追加のオーダーも取りやすい。で、あれば、どうやって、テーブルの上に空きを作るか・・・。プロです。
 まだ付き合い始めの若いカップルの場合、特別なデザートをおすすめすると結構うれしい。「お客様だけに何か特別なデザートでもお持ちしましょうか?」って。「嫌、それはいいです!」って答える奴はいない。そんな事を言うと、恋は終わるからだ。
 ガッツリ食べる人には、お料理をドンドン紹介すればいい。食べる人と飲む人。そしてその両方なのかをプロは判断するのだ。そして、何をどうする事で喜んでくれるかをプロは理解している。だから、お料理をドンドン紹介して、ドンドン追加オーダーを取ってくる。お腹も心も一杯になる。それがテーブル上のプロの仕事だ。
 テーブルの上に、少しのお料理しかない場合などは、一気に注文が頂けるチャンスって事。テーブルの上にデザートでもない限り、書類でもたくさん載っていない限り、そういう事なのです。そしてプロはそれを理解している。
 私達のビジネスは、ある意味で、人間観察業です。そうやって、顧客を観察して、次に何を求められているかを予想するのです。テーブルの上におしぼりは足りているか? テーブルの上に灰皿はあるか? そして不愉快な感じで一杯になっていないかどうか? これらはわかりやすい顧客の要望の先回り予測です。
 顧客はいつも食べたいのです。おなかが一杯になるまで食べたい。私達居酒屋はね、おなかがいっぱいになるまで、食べさせてあげなきゃならないのです。レストランの場合は注文したお料理を食べ終えるとだいたいはお会計になる。少なかったかな、って思っても、追加の注文をしたりしない。それはね、3食の内の1食なのか、大切な1食なのかの違いです。だからレストランでも大切な1食の場合は追加の注文をするが、ファミレスでする1食なら、腹八分目でも、我慢してお会計をするのです。
 居酒屋業とは、顧客のお腹を一杯に満たす仕事です。居酒屋業とは、ほんのりいい気分になる「酔い」を美しく演出する仕事です。それらを行う居酒屋業とは、つまりは、顧客の心を満たし、キレイにする、そんなビジネスなのです。だから居酒屋業はレストランよりもたくさんの「ありがとう」を頂戴する。他のビジネスよりもたくさんのお褒めの言葉を頂戴する。そしてその反面、より厳しい言葉もたくさん頂戴する。つまり居酒屋業とは、すなわち、お客様と、私達の距離感が非常に近い、そんなビジネスなのです。そして、そのフィールドはいつも、テーブルの上を中心にして繰り広げられ、私達の仕事ぶりの良し悪しは、いつもテーブルの上にあるのです。
 出会いと別れの季節です。今までこうして私と出会って、同じ時間を共有してくれたアナタに、私は心から感謝します。今まで本当にありがとう。アナタと共に過ごした日々は、かけがえのないものとなりました・・・。お客様はそんな大切な気持ちで出会いと別れを迎える。そして、人々の出会いと別れのフィールドにはいつもテーブルがある。そしてそのテーブルの上の事を演出するのは君達だ! お客様が思う、出会いと別れを、どうか感動的なものにしてあげて欲しい。桜が舞う今夜も、アナタは最高の演出家なのだから・・・。

どんなことだって、すべては未来への糧になる   中田英寿(元プロサッカー選手)

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