スタッフ通信


VOL.74 2013/02
客席周りは常に鋭く!
 飲食店の顧客にとって、意識が高い場所があります。それはテーブル回り、つまり客席周りです。お客様が座るその椅子。座布団。テーブル。そしてその周りの事です。繁盛している飲食店はこの客席周りが実に徹底しています。どう徹底しているかって? それがセンスです。今月はこの客席周りについて書こうと思います。
 ここで説明をひとつ。顧客はなぜ客席周りが気になるのか? 答えは簡単です。肌で触れ視線に入るからです。人は自らの「肌が」触れるもの、「肌で」触れるものや、いやおうなしに視線に入るもの、入ってくるものについては、非常にナーバスです。なぜなら身体や生命に影響があるかもしれないからです。だから本能として人はこれらに対して、実に敏感です。そしてその「肌」の延長的、究極形が、「舌」、であり、口腔内(口の中)なのです。つまり人は五感のすべてを通して、これを口腔内から摂取していいかどうかを判断する。その判断のおおむねが、客席周りに集約されていて、それが飲食店の大事な販売要因って事なのです。つまり顧客満足の重要な要素として客席周りが存在するって事です。
 だから繁盛している店舗は客席周りに実に配慮が効いている。センスが輝き不快感がないのです。そればかりか、「良く出来ているなぁ!」と感心させられる事もしばしばです。つまり繁盛店は、客席周りが鋭いです。別に刃物のように切れる訳じゃないです。私が言う鋭いとは「はぁ〜、うまくしてるなぁ〜」って感心した時の様子の事。そしてそのような時、その顧客は、その店の、圧倒的なるファンになる可能性が大なのです。
 では、鋭い客席周りって一体どんなでしょう。ここでは、私の個人的見解を書きます。むろん君たちのセンスもあって、それは私と同一ではないかもしれない。でも客席周りを改造するきっかけや、客席周りを見直す意識の向上になればと思います。
 まずセンスの良い繁盛店の客席周りは、店舗コンセプトを外してない。店舗のありようや、その店舗でお客様に伝えたいことが、ダイレクトに伝わるのが客席周りである事を、繁盛店の人達は知っているのだ。具体的には、コンセプトを外さないポップがきちんと美味しそうに貼ってある。コンセプトを主張するアイテムが置いてある。例えば、海鮮酒場にお魚専用のおしょう油。イタリアンレストランにこだわりのナプキン。韓国料理店の銀の箸。他にもトロ箱酒場に汚いくくり付けのおざぶ。焼肉屋にキムチの壺。つまり繁盛店は店舗コンセプトを上手に客席周りで演出しているのです。実にわかりやすくね。
 次に繁盛店は、客席周りが衛生的です。私が考える衛生的とは、ピカピカって事じゃぁない。それは店舗コンセプト的に衛生的かどうか。中華料理店は少しギトギトしてる。でもはたしてギトギトしてない中華料理店って繁盛するのかなぁ。割烹や料亭は磨き上げられたピカピカの床の方がいいけど、ピカピカの床のラーメン屋って美味しいって思えるだろうか? 客席周りは衛生的でなきゃダメだ。でも衛生的って店によって違う。私は、飲食店の客席周辺は「それなりの衛生的」でいいと考えている。「それなりの衛生的」とは変な表現だが、美味しそうな衛生感って事なのです。不衛生は絶対的に論外。でも、この「それなりの衛生的」感ってのは、センスなのです。センス良く超がつく程に衛生的に!
 次に繁盛店は客席周りにある程度の「驚き!」がなくてはならないと思っている。つまりサプライズです。よく客席でお誕生日コーラスをしますが、あれはいわゆるそういう事です。サプライズのない飲食店は記憶に残らない、いや、正確には記憶に残るきっかけがないので、再来店につながりにくいのです。マッチを開けたらあたりクジが入っている。100円入れておみくじがひける。管の口から話をするとキッチンに伝わる、ハンバーグの中にチーズが入ってる、これらみな、実は客席周りのサプライズなのです。
 更に繁盛店は客席周りに対するオペレーションが素晴らしい。オペレーションとはすなわち、いかにして単純に面倒なくお客様に喜んでくれる仕組みが出来ているかどうかって事です。遠回りしてビールを運ぶくらいなら、氷をしきつめた水樽に瓶ビールを山盛りいれておこう! そして勝手に飲んでもらおう! 取り皿を自由に交換できるようにたくさんを最初からテーブルにおいておこう! お客様に喜んでもらう為には面倒が多々ある。でも面倒が過ぎるとスタッフの負担が大きくて辛い! スタッフが辛くて笑顔のない店に、良きオペレーションはありません! そしてそんな店は繁盛しません!
 他にも繁盛店は客席周りに対する配慮がすばらしい。極寒の夜、テーブルにつくと暖かな湯豆腐がブクブク言ってたりする。聞けばそれがサービスとの事。湯豆腐なんてフードコストは微々たるもの。しかし顧客の感動はパンパない。客席の壁に未使用のナイロン袋。良く見ると、「緊急事態はこれを!」ってある。大学横の酒場が考えた配慮だ。ラーメン店のテーブル横には「替え玉20円」の文字。聞けば替え玉の原価は自家製麺で25円なのだそうな。金銭的儲けより、配慮をもとにして栄える事を考えるから、理解できない事がしてあったりする。原価を無視して顧客の期待に応えようとするから繁盛する。そしてしっかりそれをテーブル回りで主張している。
 総合的にみて繁盛店は客席周りの空間利用が実にうまい! 前述した色々な事をしっかりとやっている。滞在型のビジネスである飲食店は、どんなに最低でも1時間以上はそこに居る。だから客席周りに対する演出が重要なのだ。そしてあらゆる演出は「旨く」みえるように出来ている。ちなみに余談だが、10分や15分で利用が終了するようなファストフードや牛丼屋は私は飲食店とは認めない。顧客との会話が単語単位の最低限で、調理が超簡易的なものは飲食小売業であり飲食店ではない。と私は考えている。だから本当の飲食店は、客席周りの努力が、必ず繁盛につながると考えているし、飲食小売業は客席周りで何をやったって、売上には影響しない。
 最後に誤解のなきよう衛生面について基本的な事を書きますが、繁盛店はぬかりがない。私はよく携帯で懐中電灯アプリを立ち上げて、足元を確認します。きまって足元にぬかりがあると、その店舗はそんなに繁盛していない。繁盛店はドンデンで2回転3回転したとしていても、きまって足元にぬかりがなく、清潔にそれは保たれている。私は店舗に行くとどうしても衛生的基本形を確認します。店舗コンセプト的なる衛生感とは違って、マジで、客席周囲についての衛生的チェックをします。パイレーツ・オブ・カリビアンのジャック・スパロウは見た目、汚らしいけど、なんか、香水のいい匂いがしそうだと私はいつも思っている。だって中身はジョニー・デップだもの。飲食店の客席はこれに良く似ている。マジで汚い飲食店は絶対につぶれる。意味なくキレイな店も絶対に繁盛しない。大切な事は店舗コンセプトをしっかり守って演出をしているが、決めるところは徹底的に美しく決める! 汚らしい店が、演出ではなく本当に汚くて、使用後の割り箸なんかが足元に落ちてたりすると、カチンってくる! ここは誤解なきよう重複して記述したい。
 客席周りはね、みんなが大いに笑い、大いに考え、大いに同情し、大いに感傷的になっていい場所だ。時にお客様と一緒になって食べたっていい場所だ。そんな究極的なる接客が出来るなら、本当にそうしてもらいたいって私は考えている。時としてお客様に励まされ、勉強させて頂き、お客様を大切にしたいなぁって思う気持ちが高くなればなるほどに、それは接客って事が楽しくなる瞬間だ! お客様が私達におしゃべりしてくれて、私達を可愛がってくれたなら、それはホールの極上の喜びである。だから故に、絶対的に客席周りに意識をかけよう! 私達の主戦場である客席周りに配慮し、客席周りに対して常に敏感であろう! そうする事できっと仕事は楽しくなるし、やりやすくなるのだ! アナタの店の客席周りは、鋭いですか? それとも・・・!? 

継続するということは同じ事の繰り返しではなく成長し続ける事なのです  クルム伊達公子

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