スタッフ通信


VOL.71 2012/11
テーブルパワーを一考せよ!
 今月はテーブルパワーについてお話しましょう。テーブルパワーとはすなわち客席の強弱の事です。簡単に言うとね、そのテーブルはどの程度、お客様からの受けが、良いか、悪いか、の強弱って事です。
 各店1番卓から何番卓までか、色々とありますよね。小さな店だと、6番テーブルまで。大型店だと26番とか、渋谷のとある店は129番まである。でもね、考えた事ありますか? それぞれのテーブルの事を・・・。そう。それぞれが持つテーブルの力を。
 これから説明するテーブルパワーは、飲食店として接客する上においてとっても重要です。テーブルパワーを知らない者は、顧客の笑顔を獲得する事は絶対にできません。いい機会ですから、自分のお店のテーブルの事を、今少し考えてみましょう。
 世の中には、色々なテーブルがあるかと思います。色々な空間や状況が客席にはありますねって事です。カウンター。ソファー。円卓。川床。囲炉裏に青空テーブル。飲食店には実にたくさんのテーブルの様態がある。
 たとえばこんな感じです。新規に来店されるお客様がいて、客席に案内するとしよう。客席についた顧客が「ワーッッ!」とか「スッゴーいッ!」とか感嘆の声を上げそうならば、おおよそ、そのテーブルはお客様にとって、超GOODです。顧客の表情は正直です。何も声にならない時は、ふつう・・・。でも、顧客同士が顔を見合わせて、眉に明らかな変化があれば、それはNO-GOODです。顧客の顔からみるテーブルニーズの強弱の判断って事です。中にはひどいNO-GOODもありました。「えっ、ここじゃなきゃダメなの・・・」って言ったお客様に詫びた経験も私はあります。わかってるんだよねぇ。私達も、お客様も、わかってる。何を? そのテーブルが自分にとって、良いテーブルか、悪いテーブルかって事を・・・。
 少し話を横に逸れてみます。各テーブルにはテーブルパワーとは別に、テーブルキャラクターってのがあるのです。私が勝手に名付けました。テーブルキャラってのは、どんな顧客になら受け入れてくれるのかの特徴、個性、のようなものです。つまり、そのテーブルの持っている可能性や性質のようなものです。テーブルパワーとは、お客様がそのテーブルを受け入れてくれるかどうかの単純な良し悪しの事です。
 例えばね、赤い照明の席は料理の見た目がわからなくなるため、誰もが嫌がるけど、カップルには強い。ベンチシート型のテーブルに太っちょの男性二人を通すと怒られる。暇な夜。10名用のロングテーブルにカップルをご案内。カップルは思わず、「なんで・・・?!」ってなるよね。いくら暇だからってそれはダメ。広い空間に熱々の二人。イチャツケナイヨ! ってそんな問題でもなく、それはダメ! つまりね、これらのテーブルは、テーブルパワーはないが、キャラは濃い席、って事なのです。
 テーブルパワーを強くすると、どうしてもキャラは弱い。万人受けするとキャラは薄くなるのです。ナイナイ、と、江頭2:50、みたいな・・・。うん? わかりにくいか・・・。
 話を戻します。テーブルには、パワーとキャラのふたつの要素があって、このふたつの要素をどう判断するか、これが大事となるのです。みなさんが働いているお店のテーブルは、どれもこれも、この、キャラとパワーで構成されている。それをよくよく理解して、顧客の誘導をしなきゃならないのです。
 更にテーブルパワーやキャラは周りの状況で時に変異します。例をあげます。カウンターのもっさいおじさん達の横に、女子会3人を詰めて座らせるとどうなるか。「はぁ・・・?!」ってなるよね。もうその段階で再来店はありません。どんな料理を運んでも美味しいなんて思ってくれません。「この店、最低・・・」って心の中でつぶやくだけの女子会です。他にも赤ちゃんの横のテーブルにヘビースモーカー。静かにしっとり飲んでる老夫婦の横に、若者の合コン。いくら若者向きのテーブルでもそれはNG!
 またまた余談ですが、こんな事を想像してください。アナタは今から電車に乗ります。始発です。今から出勤です。まだ誰も座ってません。よくある縦長のベンチシートです。これからかなり混雑します。アナタ、ベンチシートのどこに座りますか? とある統計では、一番端に人は座ります。その次はもう片方の端。その次は真ん中です。あのね、人にはパーソナルエリアってのがあって、テリトリーのような心のエリアをもっている。だから、知らない他人とは極力距離を置こうとするのです。
 話を元にもどそう。そう。テーブルパワーとキャラの話です。出来る子は、この、テーブルキャラを自分で簡単に理解します。パーソナルエリアも瞬時に理解します。誰の横にどんな顧客を座らせるのがいいのかを理解します。それはいつも顧客の要望と合致します。カウンターは端にまず最初。その次に別の端。その次は真ん中。出来る子はいつも簡単にそんな事をやってのけます。
 更に出来る子は、顧客との心理合戦を始めます。さて、次に来る来店者はどこに座らせるか。女子の場合は、お父さんの場合は・・・。自分はあそこに座らせたいが、お客様は嫌がるかなぁ・・・。でも、そこに座ってもらうと、客席の効率がよくなるし。ってな具合です。
 テーブルキャラはもちろんカウンターだけでなく、各テーブルにも発生します。スタッフから見えるテーブル、見えないテーブル。カップルだったらどちらに案内しますか? 老齢のご夫婦。足が悪いようだ。さて、どこに案内しますか? ハンカチで汗をかきかき、ふとっちょのお相撲さん。さて、どこに案内しますか? 
 端から、そして反対の端へ。そして真ん中を埋めて、次にその間をどう形成するか。陣取り合戦の話じゃないですよ。席埋めゲームの話です。うまく埋めれば、料理の味が変わります。お客様の笑顔が変わります。滞在時間が変わりますから、当然に客単価も変わります。よって月間の売上げが大きく変わるのです。
 いったいどの席が総じて人気があるのか。つまりテーブルパワー値が高いのか。どの席はパワー値は低いけどキャラは濃い。それは、いつも顧客の心理を把握する作業です。顧客は今夜、どんな理由で来店されたのか? TPOとして、今日はどんな気分の日なのか? どんな使われ方を今夜この店はするのか? これを瞬時に読み取って、顧客を抜群の場所に誘導する。それが酒場の基本なのです。そしてそれはテーブルパワーとテーブルキャラクターを理解しなきゃ、到底できないって事です。
 昔々の話です。お客様、喜ぶかなぁ。そう思って、私、女子の集団の横に、男子3名を案内した。とにかく喜んでもらいたかったのです。いい店だと思われたかった。キッチンの料理を最大限の味にしたかった・・・。そんな昔の話。すると、酔っぱらった男子の一人が女子にちょっかいをかけだした。メモ用紙に自分の携帯番号を書いて渡したのだ。それを見ていた女子の友達が激怒! 慌てて飲み物をサービスして、別の席に移動してもらった。失敗だった。まさかそんな事になるとは・・・。
 タバコを吸う人。子供と来た人。カップルさん。自衛隊さんに、お医者様。役所の人に消防士。怪我をした人、不倫のカップルかな? 怖い人に、管理職。はぁ〜。実に世の中には色々な職業があり、色々な人がいる。たくさんのシーンで酒場は利用され、それぞれのTPOがあり、テーブルの希望要件がある。プロフェショナルは一発でそれを把握する。最高の席に案内する。それがホールスタッフの仕事というものだ。それはソムリエが抜群のワインを一発でご紹介するかのように。料理を引き立たせる大切な仕事なのです。
 寒い席に、暑い席。狭い席に、ゆったりした席。この雰囲気はあの顧客に合うかどうか? このテーブルの質感は嫌いかも。この照明は? BGMのスピーカの真下かどうか?
 あのね、くだらない事のように思うかしれない。どうでもいい事のように感じるかもしれない。出来ないよ、そんな事! って、なるかもしれない。でもね、そうじゃない。それじゃダメなんだよ。私達は、飲食業をしている。ならば、精一杯の心を顧客に向けるべきなんだ! それはね、町のお医者様が患者を思うのと同じだ。それが働くって事だし、精一杯の気持ちを込めて、お客様と接する、それが、アナタの心を一歩も二歩も前進させる。成長させるって事につながるんだよ。失敗したっていい。大切なことは、顧客の為に、一生懸命に心を砕こうよ! それがアナタの未来を輝かしいものとするだろうから。
 私は今でもよく覚えている。その子は本当によく出来た子だった。させる仕事は、いつも完璧で、とっても洗練されていた。先を読んで行動するって事はこういう事だと、とっても私は勉強になった。若いのに本当に参考になった。その子は、オープン前にすべてのテーブルをきちんと磨き、座布団をセットし、テーブルパワーをよくよく観察していた。座布団のすべてにその子は座って、顧客の見える視界から、テーブルパワーを学習していた。どの席だと、スタッフが見えて、どの席だとまぶしいのかまでをよく理解し、微妙に座布団を動かしたり、照明の角度を変えたりしていた。
 ある日、5名の予約があった。男子3名と女子2名だった。面白い事にその子は客席に行って、セットしていたお通しの位置を変えた。正確には右と左のお通しの位置を替えた。私はそれを見ていて、なぜ、せっかく置いたお通しの位置を替えたのか聞いた。その子は「ここは女子が座りますから」と言った。驚いた・・・。「男子はいいんですけど、女子は見た目にこだわるから・・・」、つまり、見た目がいいお通しを、女子が座ると予想したであろう席に置きなおしたというのだ。実際にその席には女子が座った。今でも何故だが私にはわからない・・・。理由を聞きたかったけど、正直、聞けなかった。
 つまりね、だからね、そのお客様にとって、どの席がいいのか、そんな事を考えて営業をする事って、大変だろうか・・・。その子にとっては全然大変じゃない。それは実に自然で、実に平常のような感じで、考えている。行動している。なら、どうしてそんな事ができるのだろうか・・・。日々、ながれていくお仕事の中で、みんなは、何を考えて、行動しているだろうか? 人にとって、実は、考える事って、とっても大変。でもね、あらゆる事について、一生懸命に考える事って、いつか必ず行動につながる。人はね、考えると、やってみたいって思う。だから行動になる。でね、人が人に対して何かをやってみて、それが、喜ばれたとする。すると、また考えたくなる。もっともっと、喜ばれたいって。そう思って、考えて、行動して、また喜ばれる。
 その子は、そんな行動パターンをいつも持っていた。そして私はこの時の経験から、テーブルパワーやキャラについてを深く考えるようになった。そして私はこう思う。テーブル配置と案内はね、考えねばならない。何が一体どうなっているのかを。テーブルの状況を知らなきゃ出来ないって事なんだ。そして、一瞬で顧客を案内しなくちゃならない。一瞬に最高の念力を入れて、考える。そして決定する。どの席が一番喜んでくれるかを! 迷っちゃダメだ! 絶対に迷ってはいけない。こっちがいいかな? あっちがいいかな? 迷いは顧客を不安にさせる。キスする前に目を閉じているのに、中々キスをしてくれない恋人みたいなものだ。相手が不安になるような優柔不断は最低だ。一瞬で決定し、最高の笑顔で、客席までご案内する。すこし失敗だったかなと思ってみても、そんな不安は一切見せず、グッと引き寄せてキスをする。そんな強引さがテーブル案内には大切なのです。男子も女子もね。
 だから、いつもテーブルパワーとキャラクターには一考の必要がある。常に学習し、研究する必要がある。肝心なその時の為に、いつも、顧客を思い続けるひたむきさが必要だ。そして、それが、本当のプロの接客ってもんだ。毎日、いろんな恋模様を作っている。いつもそんな自負をもって、私はテーブルパワーを考えている。さて、みんなはどうかな?

現状維持では 後退するばかりである。        ウォルト・ディズニー

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