スタッフ通信


VOL.59 2011/11
上品な嘘
 世の中には実にたくさんの「嘘」があります。考えてみれば「嘘」って言葉だけを取り上げると、それは実にネガティブなイメージがありますが、さてさて、本当にそうなのでしょうか? 今月は飲食業に必要な「嘘」って言葉を探求してみようと思います。
 人は毎日どのくらいの「嘘」をつくのでしょう? そもそも「嘘」をつくって、一体どういうことなのでしょう? 心にもないことを言うことが嘘!? 真実とは違う事を発することが嘘!? 嘘って言葉は単純だけど、実に奥が深い。
 嘘ってやつは、いつも自分を防御します。たとえ一瞬であっても自分をそれなりに守ってくれる事がある。しかし嘘はだいたいにおいて自分をピンチに立たせます。発したその嘘が取り返しのつかない嘘となり、嘘を隠す為に人はまた嘘をつく。本当の意味での悪たる嘘ってやつはこんな感じです。
 人の心にはいつも、真実という名の本音が存在します。しかし本音はいつも表に出るとは限らない。その本音を、人は嘘という建前で包みながら生きています。嘘はいわば、生きていくための潤滑油であり、他者とのコミュニケーションツールなのかもしれない。
 人が人と接する時、ある程度の嘘はいつもついています。人は自分が思ってもいない偽りを、よくよく発しています。「今日もお若いですねぇ・・・」思ってもみない嘘だとします。しかしこの嘘は相手をほんのりと幸せにもします。
 嘘ってものは使い方ひとつで、相手を不幸にもするし、幸せにもする。コミュニケーションツールとして相手を幸せする嘘は、私達の飲食業においてどうしても必要な嘘なのかもしれない。それは嘘という名の心配りってものかもしれない。嘘って言葉をかりた、思いやりなのかもしれない。
 人を幸せにする嘘と人を不幸にする嘘。で、あれば、私達は、人を幸せにするような嘘をつくことに注力しよう。そして嘘をつくことによって、誰も傷つかない、そんな嘘をつこう。嘘というオブラートをまとえば、飾り立てた言葉も、ちょっぴり恥ずかしくてキザなセリフも、気取らずに言えるかもしれない。そんな言葉をたくさん発する事が出来て、いつも笑顔を絶やさなければ、その人の周りにはパッと花が咲く。
 飲食業の営業はね、いつもそんな嘘と共に成立している。人を幸せにする為に、上手に嘘を言うことが出来れば、それは大人の証であり、人生を知り始めた証拠なのかもしれない。ならば嘘に磨きをかけて、これを上品なものとしよう。上品な嘘に・・・。
 いつもたくさんの人々が、疲れた心の中を洗い流すために私達の飲食業にやってくる。
 そして私たちの上品な嘘を待っている。飲食業の中にある嘘ってやつは、「非現実」ってことかもしれない。時にそれは「悦楽や快感」って事なのかもしれない。アナタが発したその上品な嘘が、もし、相手を豊かにし、すさんだ心に「幻影」のようなものが灯り、心底あったかく思えたなら、それはどんなに素晴らしいことだろうか。私ならばそんな店にたびたび通うことだろうなぁ。
 今はそんな店がなくなりつつある。だからこそ、どうか飲食業にマッチした上品な嘘で、アナタの目の前にいる、すべての人達を幸せにしてあげてほしい。その為に人生を経験し、相手の心の傷がわかるようになってほしい。どんな嘘を投げかければ、心が癒えて幸せになるかを知った時、人は少し成長し、前進したと思えるのかもしれない。そんなこんなで、人に優しくなれるのかもしれない。それが飲食業の使命であるのかもしれない。
 かくいう私は上品な嘘がとても苦手だ。まだまだ人生経験が足りないのだろうなぁ・・・

人生はアップで見ると悲劇だが、ロングショットではコメディだ チャールズ・チャップリン

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