スタッフ通信


VOL.55 2011/07
お客様は顧客である前に人である
 どんな時にお客様は喜ぶのでしょうか? 飲食業である私達の商いにとって、それはとっても奥深く難しい問題です。もしかしたら、どんな時にお客様が喜んでくれるのかを、一生をかかって探し出す作業、それが飲食業の宿命ではないかと思うくらいです。
 お客様の喜び、それは業種業態、そしてその時代によってまちまちです。
 物販小売業で言えば、いい商品を、安く販売する事。また近くにある店であれば、なおいい。それが物販小売業の基本。つまり商品や場所ありきなのです。
 では私達のような飲食業はどうでしょう? 単純に安く美味しい商品を出せばそれでいいのでしょうか? それだけでお客様は本当に喜ぶのでしょうか? その時の美味しい料理って一体どんなものなのでしょうか?
 あのね、飲食業は物を販売すればいいってものじゃぁありません。商品を顧客のテーブルまで運び、召し上がっていただく。しかしそれだけではまったくダメなのです。
 私達はお客様に、心地良いサービスをし、喜んで頂く。つまりそれは、「思い出」や「元気」を作る壮大なお仕事であり、正当にこれを成し得た者だけが、飲食業として存在する事を許して頂けるって事なのです。
 ではいったいどんな時にお客様は喜んでくれるというのでしょうか? お客様に喜んでもらうための最低の条件ってものがあります。ついつい忘れがちになってしまうその最低の条件とは、お客様は「人」であるって事を理解するって事です。
 今アナタの目の前に存在するお客様は人間です。人なのです。そしてアナタも人間であり人なのです。長く飲食業に従事していると、時としてこの簡単な原理をついつい忘れがちになってしまいます。単なる店員と顧客になっているのです。恐ろしいことです。
 思い出してみてください。アナタが飲食店で腹が立った時、それはアナタが店員から顧客としてみられても人として扱われていない時です。顧客ではなく人として。ただそれだけなのに、そうは扱われない時、アナタはもっとも不愉快になる事でしょう。
 お客様は人です。人として、アナタに良くしてもらいたいと思っている。お客様はアナタに心を配って欲しいと感じているし、お客様はアナタに好感を持ちたいって思っている。そしてお客様はアナタに「私の事を忘れないで!」って、いつも感じている。そう、アナタがお客様の事を肌で感じ、人として、いい事をしてあげたいと思えば思うほど、お客様もアナタを意識し、人として、アナタを好きになるって事なのです。
 そこには、キッチンだのホールだのという壁はありません。お客様への思いが、人として強いものなら、キッチンから発する思いはホールを介してきっと届くでしょう。
 お客様をお客様ではなく、人として理解する。奥が深いこの理解ができるかどうか?
 今、アナタの目の前にいるお客様は人であり、アナタの大切な存在であり、時にはアナタを勇気づけ、アナタに微笑みを返してくれる。それがお客様の真の姿であり、アナタの未来を作ってくれる大切な存在って事なのです。
 何も私はお客様にこびりつけって言っているのではありません。迎合しろって言っているのではありません。お客様にお客様としてではなく、ひとりの人間として接する事がもし出来れば、実はそれが私達の商いの究極の喜びであり、これを忘れた瞬間に、飲食業ってものは、ひどく辛く、虚しいものになってしまうって事なのです。
 アナタの成長の要は人として、お客様の喜びの中にある。これを知るか知らないか。人生として、実に大きな違いであるということを、私はアナタに知ってもらいたい。

おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ サイゼリヤ創業者 正垣泰彦

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